恥ずかしさに耐えて男になれる!?

熊本県氷川町の早尾地区に、江戸時代から続いているといわれる、一風変わった儀式があります。地区の長老や役人の前で、木でかたどった男性器の模型「スッキョン」を持ち上げ「スッキョンキョンのキョン!」と叫び、1人前の男であることを周囲に示すのです。

すっきょんの行事

(本人の了解を得て掲載しています)

かつては、早尾地区ではスッキョンを経験しないと、半人前とみなされていました。昭和30年代ころまでは、青年団に加入する条件だったそうです。その後、消防団に統合されたため、消防団の入団式で行われるようになりました。

しかし、昭和44年(1969年)ごろからはそれもなくなり、昭和52年(1977年)から有志が形を変えて開催するようになりました。

以前は消防団が年明けに初めて集まる「はつごもり」(1月18日)に開催されていましたが、今では4月の第一日曜日の地区の祭りに合わせて行われています。2018年4月1日の日曜日に、スッキョンが執り行わえると聞きつけ、現地を訪れててみました。

会場となったのは、早尾公民館です。

まずは、「神主」が模範演技を披露します。本物の神職ではなく、地元の長老や人望のある人が担当するそうです。

続いて、消防団員がスッキョンに挑戦します。今年は2人の方が儀式に参加しました。

文化庁が記録するほど貴重な民俗文化

実は、スッキョンは文化庁から「変容の危機にある無形の民俗文化財」に選ばれるほど珍しい行事なのです。平成27年度に調査報告書がまとめられました。

スッキョンがいつごろから早尾地区で始まったか定かではありませんが、明治時代にはすでに行われていたそうです。1969年ごろに一時中断し、昭和1977年に上天草市の天草青年の家で開かれた研修会で、早尾地区の出し物として披露され復活しました。

その後、昭和1982年に文化庁から民俗文化財に選ばれ、保存会が結成されました。2005年に宮原町と竜北町が合併した際に一度中断しますが、2013年に8年ぶりに復活し、今に至ります。

「スッキョン、キョンのキョン!」

スッキョンの儀式の流れはこんな感じです。まずは目の前にソウダイと呼ばれる三方が置かれます。ソウダイには、スッキョン(男性器の模型)、オシャクシ(お杓子)、注連縄、榊、オハッツアン、徳利が配置されます。オハッツアンとは、お供えのご飯のことです。

まずは、「おしゃくしさん、おしゃくしさん、あなたのおかげで、年三度のオハッツアンをいただきます。おしゃくしさんご機嫌よう」と唱え頭を下げます。続いて、ソウダイの上にある榊を手に取り、左右に振ってお祓いし、そのまま背中にさします。

注連縄を頭に置き、スッキョンを股間にセット。左手でスッキョンを抑え、右手で先端をさするようにして「当年はおめでとう」と言います。

次いで、右手にツバをかけ「かりたこ」と言ってから、右手でスッキョンの先端部分を叩きます。そして「ナカブト(中太)」「ネボソ(根細)」と言いながら、中央部と下部を叩きます。さらに、睾丸に見立てた2つのザボンの実を交互になでつつ「きんはかたきん」と言い放ちます。続けて陰毛に見立てたシュロの表皮をひっぱり「毛はやまやま」と唱えます。

いよいよクライマックスです。スッキョンを両手で持ち上げながら「スッキョン、キョンのキョン! スッキョン、キョンのキョン!」と叫びます。

最後に、スッキョンをソウダイに戻して、ソウダイごと目の高さまで3回持ち上げて終了です。詳しくは動画を見てください。

歌を3曲歌って度胸をアピール

儀式が終わると、曲を3曲歌わねばなりません。神主が「3曲披露してください」と言った時、聞き間違えかと思ったのですが、3曲歌わねばなりません。

「チューリップ」や「森のくまさん」などの童謡のような簡単な曲で良いようなのですが、緊張しているのでなかなか大変そうでした。

かつては、ここでしっかりと歌い上げることで、観客にアピールして、「どの青年に娘を嫁をやろうか」と品定めしてもらう場でもあったそうです。

思わず笑いが出てしまう不思議な儀式ですが、一方で伝統の重みも感じさせます。熊本に限らず、日本全国でこういった祭りや奇習が次第に消滅していっていると思われます。少しでも記録に残していきたいものです。


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